第1章:スパイダーマンを演じた人たちの全体像を整理しよう

スパイダーマンを「演じた人」をすべて挙げてみて、と言われたら、あなたは何人言えるでしょうか。トビー・マグワイア、アンドリュー・ガーフィールド、トム・ホランド。この3人はすぐに出てくると思います。でも実は、その前にニコラス・ハモンドや東映版の香山浩介がいて、アニメではマイルス・モラレス役のシャメイク・ムーア、日本語吹き替えでは猪野学・前野智昭・榎木淳弥・小野賢章・宮野真守・興津和幸など、多くの俳優・声優がスパイダーマンになってきました。
この記事では、そんなスパイダーマンたちを「実写」「アニメ」「ゲーム」という3つの軸で整理しながら、一人ひとりのキャラクターやキャリアの歩みをやさしく解説します。「この人のピーターはどんな性格?」「スパイダーマンを演じたことで、その後の仕事や人生はどう変わった?」といったポイントに注目すると、同じ赤と青のスーツの中に、まったく違う人生と感情が詰まっていることが見えてきます。これからスパイダーマンを観る人も、すでに何周もしている人も、「誰がどう演じてきたか」という視点で、もう一度スパイダーマンの世界を旅してみませんか。
今まで何人のスパイダーマンがいるのか
「スパイダーマンを演じた人」と聞くと、多くの人はトビー・マグワイア、アンドリュー・ガーフィールド、トム・ホランドの3人を思い浮かべると思います。でも、歴史をよく見ると、実写だけでももう少し人数が増えます。1970年代のアメリカのテレビシリーズ『The Amazing Spider-Man』ではニコラス・ハモンドがピーター・パーカーを演じていましたし、1978年スタートの東映版『スパイダーマン』では山城拓也/スパイダーマン役を香山浩介(現・藤堂新二)が担当していました。
これにサム・ライミ版三部作のトビー・マグワイア、マーク・ウェブ版のアンドリュー・ガーフィールド、MCU版のトム・ホランドを加えると、主役としてスパイダーマン/ピーターを演じた実写俳優は少なくとも5人ということになります。 さらに、アニメ映画『スパイダーマン:スパイダーバース』シリーズのマイルス・モラレス役シャメイク・ムーアや、ゲーム版スパイダーマンのユーリ・ローエンタール、日本語吹き替えを務める猪野学・前野智昭・榎木淳弥・小野賢章・宮野真守・興津和幸など、「声」でスパイダーマンになった人を含めると、人数は一気に増えます。
こうしてみると、スパイダーマンというキャラクターは、一人の俳優のものではなく、世代やメディアをまたいで受け継がれてきた「役柄」そのものだと分かります。同じ赤と青のスーツでも、演じる人が変わると雰囲気も価値観も変わります。今日は、その違いを楽しむための「地図」を作るつもりで、実写・アニメ・ゲームを横断して整理していきます。
実写でピーター/スパイダーマンを演じた5人
実写で主役としてスパイダーマンを演じた人を、まずはざっくり押さえておきましょう。時系列に並べると、以下の5人になります。
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ニコラス・ハモンド
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1977〜79年のテレビシリーズ『The Amazing Spider-Man』でピーター・パーカー/スパイダーマン役。全13話とTV映画3本が制作されました。
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香山浩介(藤堂新二)
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東映版『スパイダーマン』で山城拓也/スパイダーマン役。1978年5月〜1979年3月まで全41話が放送され、劇場版も1本制作されています。
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トビー・マグワイア
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サム・ライミ監督による映画『スパイダーマン』三部作(2002/2004/2007)でピーターを演じ、現代のヒーロー映画ブームの火付け役になりました。
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アンドリュー・ガーフィールド
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リブート作品『アメイジング・スパイダーマン』(2012/2014)の2作で主演。若くて繊細なピーター像を前面に出したシリーズです。
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トム・ホランド
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MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)版の『スパイダーマン:ホームカミング』『ファー・フロム・ホーム』『ノー・ウェイ・ホーム』や、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』などでピーターを演じています。さらに第4作『Spider-Man: Brand New Day』が2026年7月31日全米公開予定と発表されています。
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この5人を軸にしておくと、のちほど出てくるアニメ版やゲーム版も「どの世代の流れに近いか」が分かりやすくなります。
アニメ映画・シリーズでスパイダーマンになった人たち
アニメ作品では、実写とはまた違う顔ぶれがスパイダーマンを演じています。代表的なのが『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018)と、その続編『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』(2023)です。主人公マイルス・モラレスを演じるのはシャメイク・ムーア、日本語吹き替えは小野賢章。ピーター・B・パーカー役にはジェイク・ジョンソン(日本語版は宮野真守)がキャスティングされています。
また、過去にも『スペクタキュラー・スパイダーマン』などのテレビアニメで多くの声優がピーターを演じてきましたが、日本で特に知名度が高いのは、やはりスパイダーバース組とゲーム版のキャストでしょう。アニメの場合、表情や体の動きは作画チームの仕事になるぶん、声だけで感情を伝える比重が大きくなります。そのため、実写とは違う解釈でキャラクターを作り込む余地があり、「この声のスパイディが一番好き」というファンも珍しくありません。
ゲーム・吹き替えでスパイダーマンを支える声優
ゲームの世界で今もっとも存在感があるのが、インソムニアック・ゲームズが手がける『Marvel’s Spider-Man』シリーズです。2018年発売の1作目では、英語版ピーターをユーリ・ローエンタール、日本語版を興津和幸が演じています。ゲーム内の設定では、ピーターは23歳で、ヒーロー活動歴8年というベテラン寄りのスパイダーマンです。
日本語吹き替え版の映画では、トビー・マグワイア版ピーターを猪野学、アンドリュー・ガーフィールド版を前野智昭、トム・ホランド版を榎木淳弥が担当しています。 さらにスパイダーバースのマイルス役小野賢章、ピーター・B役宮野真守も含めると、日本語だけでも複数の俳優・声優がスパイダーマンを支えていることが分かります。ゲームや吹き替えは、字幕よりも「声の印象」が強く残るので、俳優の解釈がダイレクトに伝わる場所です。
年表と一覧表でざっくり把握
ここまで出てきた情報を、表で一度整理してみます。年号や媒体をざっと見渡すだけでも、スパイダーマンというキャラクターがどれだけ長く、幅広く演じられてきたかが分かります。
| 時期 | 作品/媒体 | 主な役名・キャスト | ポイント |
|---|---|---|---|
| 1977〜79年 | 米TVドラマ『The Amazing Spider-Man』 | ピーター・パーカー:ニコラス・ハモンド | 初の本格実写シリーズ。13話+TV映画3本。 |
| 1978〜79年 | 東映版『スパイダーマン』 | 山城拓也:香山浩介 | 日本オリジナル設定。全41話+劇場版。 |
| 2002〜07年 | サム・ライミ版三部作 | ピーター:トビー・マグワイア | 近代ヒーロー映画ブームの土台を作ったシリーズ。 |
| 2012〜14年 | 『アメイジング・スパイダーマン』2作 | ピーター:アンドリュー・ガーフィールド | より現代的で等身大の青春ドラマ路線。 |
| 2017〜 | MCU版+Spider-Verse+ゲーム | ピーター:トム・ホランド/マイルス:シャメイク・ムーア ほか | MCU本編・アニメ・ゲームが同時進行するマルチ展開。 |
この年表を頭の片すみに置いたまま、次の章からは俳優一人ひとりのキャラクターや演技の違いを見ていきます。
第2章:実写スパイダーマン5人のキャラクターと芝居の違い
ニコラス・ハモンド:テレビドラマ時代の素朴なスパイダーマン
ニコラス・ハモンド版スパイダーマンは、今の目で見るとどこか素朴で、手作り感のあるヒーローです。1977年のTV映画を皮切りに、1979年まで合計13話のシリーズとして放送されました。 特撮技術は現在ほど発達しておらず、ビルをよじ登るシーンなどもワイヤーアクションとカメラワークで頑張って見せています。その分、「普通の青年が頑張っている」空気が強く、派手さよりも地道な正義感を楽しむ作品になっています。
ニコラス本人は『サウンド・オブ・ミュージック』の長男フリードリヒ役でも知られており、すでにキャリアのある俳優でした。 その経験が生きているのか、ピーターが新聞社の上司と交渉する場面や、事件の真相を冷静に追う場面では、落ち着きのある大人の芝居が光ります。一方で、ヒーローとしての葛藤描写は現在のシリーズほど濃くなく、「力を得たからこそ責任を果たす」というシンプルな軸で描かれています。今見ると少し古典的ですが、スパイダーマンの“原型”を感じるうえで、一度触れておくと面白い作品です。
香山浩介:東映版が生んだ日本オリジナルヒーロー
日本の東映版『スパイダーマン』は、アメコミ原作をベースにしつつも、内容はほとんどオリジナルです。主人公は新聞社のカメラマンではなく、レーサーの山城拓也。スパイダーマンの力も、宇宙から来たガリアという人物から授かる、という独自設定になっています。
香山浩介(現在は藤堂新二名義)は、この山城拓也をとてもストレートに、熱血ヒーローとして演じています。変身前は家族思いでちょっと不器用な若者ですが、敵である「鉄十字団」と対峙すると一気に表情が変わり、決め台詞とポーズで一気に空気を持っていきます。巨大ロボット・レオパルドンに乗って戦う展開など、今のマルチバース視点で見ると「別世界のスパイダーマン」として非常に味わい深い作品です。
海外のファンの間では、レオパルドンのインパクトもあってカルト的な人気を持っており、スパイダーバース関連のイベントでも東映版へのリスペクトがたびたび語られています。香山の演技は、昭和特撮らしい熱さと、人間くさい弱さの両方が感じられ、今見ても新鮮です。
トビー・マグワイア:世界にブームを起こした2000年代のピーター
トビー・マグワイア主演のライミ版三部作(2002〜2007)は、現代のヒーロー映画ブームの土台を作ったシリーズと言われています。 彼が演じるピーター・パーカーは、内気で不器用、恋も仕事もなかなかうまくいかない青年です。超能力を手に入れても生活が突然バラ色になるわけではなく、むしろ「責任」という重いテーマに押しつぶされそうになっていきます。
トビーの芝居の特徴は、感情の“溜め”がしっかりあることです。特に『スパイダーマン2』で、力を失いかけながらも再び立ち上がるシーンは、表情だけで「逃げたいけれど逃げられない」気持ちをよく伝えています。 そのリアルさが、多くの観客にとって「ヒーローなのに、自分と同じように悩んでいる人」に感じられたのでしょう。2021年の『ノー・ウェイ・ホーム』で年長のピーターとして再登場したときも、「この人はずっとスパイダーマンのまま生きてきたんだな」と納得させる説得力がありました。
アンドリュー・ガーフィールド:痛みを抱えた現代青年としてのピーター
『アメイジング・スパイダーマン』のアンドリュー・ガーフィールド版ピーターは、トビー版よりも少し尖った雰囲気を持っています。スケボーに乗り、フード付きパーカーを着こなす姿は、2010年代前半の若者像そのものです。
アンドリューのピーターは、表向きは軽口をたたきながらも、両親の失踪や恋人グウェンとの関係など、心の中にはいつも痛みを抱えています。その複雑さが、戦いの最中の台詞や、グウェンを失ったあとの沈黙に滲み出ています。シリーズ自体は2作で終了しましたが、『ノー・ウェイ・ホーム』で再登場したとき、ある人物を救い上げて涙をこらえるシーンは、多くのファンにとって感情のクライマックスになりました。
本人は最近のインタビューで、「スパイダーマン3が実現する可能性はかなり低い」としつつも、作品への愛情は何度も語っています。 そうした姿勢も含めて、「傷つきながらも前に進もうとするピーター」と重なって見える人も多いはずです。
トム・ホランド:MCUで育った“クラスの後輩”スパイダーマン
トム・ホランド版ピーターは、とにかく「若さ」と「テンション」が印象的です。MCUデビュー作『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』の時点でまだ高校生という設定で、アイアンマンことトニー・スタークにスカウトされてヒーロー活動に参加していきます。
トム自身が体操やダンスの経験者であることもあり、アクションシーンでは軽いジャンプや宙返りが多く、文字通り「身体でスパイダーマンらしさを表現している」タイプの俳優です。『ノー・ウェイ・ホーム』のラストでは、これまでのMCUで築いてきた人間関係をすべて失う選択をし、そこから一人暮らしのアパートと自作スーツで新しいスタートを切る姿が描かれました。
その続きとなる第4作『Spider-Man: Brand New Day』は、2026年7月31日に全米公開予定。監督は『シャン・チー/テン・リングスの伝説』のデスティン・ダニエル・クレットンで、トム・ホランドのほか、Zendaya(MJ)、Jacob Batalon(ネッド)、Mark Ruffalo(ハルク)、Jon Bernthal(パニッシャー)、Michael Mando(スコーピオン)などの出演が報じられています。Sadie Sink が重要な役で参加すると報じられていますが、彼女がX-MENのジーン・グレイを演じるというのはあくまで噂レベルで、公式には役名は発表されていません。
MCU版のピーターは、「頼りになる大人ヒーローたちに囲まれた後輩」から、「自分の足で立つ若い大人」への変化が物語の軸になっています。その成長を、トム自身の年齢やキャリアの変化と重ねて観ると、より味わい深く感じられます。
第3章:アニメ&ゲームで広がる「声のスパイダーマン」たち
マイルス・モラレス役シャメイク・ムーアと小野賢章
『スパイダーマン:スパイダーバース』シリーズの主人公マイルス・モラレスは、初代ピーターとはかなり違うバックボーンを持つキャラクターです。ブルックリン出身で、黒人とプエルトリコ人のハーフという設定。シャメイク・ムーアの演技は、そんなマイルスの等身大の悩みや家族との距離感を自然な会話で表現しています。
日本語版で声を当てる小野賢章は、原音のニュアンスを残しつつ、日本の観客にとって親しみやすい柔らかいトーンに調整しています。ムーアが少しラフな雰囲気でしゃべるところを、小野は少しだけ丁寧な言葉に置き換え、マイルスの「いい子だけど迷っている感じ」を伝えています。続編『アクロス・ザ・スパイダーバース』では、マイルスの成長と孤独がさらに深く描かれますが、小野の声も前作よりわずかに落ち着き、思春期から青年へ移るニュアンスを感じさせます。
実写のマイルスはまだ登場していませんが、いつか誰かが「生身のマイルス」を演じるとき、シャメイクと小野が作り上げたキャラクター像が土台になるのはほぼ間違いないでしょう。
ピーター・B・パーカー役ジェイク・ジョンソンと宮野真守
スパイダーバースで多くの人の心をつかんだのが、少し太って疲れ気味の中年ピーター・B・パーカーです。オリジナル版で彼を演じるジェイク・ジョンソンは、コメディとシリアスのバランスが絶妙で、投げやりなジョークの奥に隠れた優しさを自然ににじませています。
日本語吹き替えの宮野真守は、そのニュアンスをさらに大げさにした形で表現しています。ドタバタするシーンではテンション高く、静かな場面ではぐっと抑え気味にして、「笑えるのに、気づいたらちょっと泣きそうになっている」感情の波を作り出しています。 マイルスと共に戦ううちに、ピーター・Bが少しずつ自分を立て直していく流れは、中年世代の観客にも刺さる内容で、「自分もこういう大人でいいのかもしれない」と思わせてくれます。
アクロス・ザ・スパイダーバースで爆増したスパイディたち
『アクロス・ザ・スパイダーバース』では、スパイダーマンのバリエーションがさらに増えます。インド風の街「ムンバッタン」を守るスパイダーマン・インディア(パヴィトル・プラバカール)、パンクロッカーのスパイダー・パンク(ホビー・ブラウン)、妊婦でバイク乗りのスパイダー・ウーマンなど、設定だけ見てもとにかく自由度が高いです。
日本語吹き替えでは、スパイダー・パンク役を木村昴が担当するなど、人気声優・俳優が多く参加しています。さらに予告編やプロモーションでは、トビー版・アメスパ版・MCU版のスパイダーマンを担当する吹き替え声優(猪野学・前野智昭・榎木淳弥)の声が登場し、「声だけ歴代集合」というファンサービス的な要素も話題になりました。
この作品を観ると、「スパイダーマンとは何か」という問いに対し、「誰かを守りたいと思った人が、その責任を引き受けたときに生まれる存在」という答えが浮かび上がってきます。そして、その思いに命を吹き込むのが、それぞれの声優たちの芝居だと感じられるはずです。
PS4/PS5版ピーターを演じるユーリ・ローエンタールと興津和幸
『Marvel’s Spider-Man』シリーズのピーター・パーカーは、映画ともコミックとも違う「ゲームならではのピーター」です。2018年の1作目では、23歳の研究助手として働きながら、8年間ニューヨークの街を守ってきたベテランヒーローという設定になっています。
英語版のユーリ・ローエンタールは、落ち着いた大人の声でありながら、ジョークを飛ばすときの軽さも持っていて、「仕事もヒーローも慣れてきた20代」のリアルな空気を出しています。日本語版の興津和幸は、そのニュアンスをくみ取りつつ、少し穏やかなトーンで訳しており、「頼れるけれど、まだどこか危うさも残るお兄さん」というイメージを作っています。
プレイヤーは何十時間もこのピーターの声を聞くことになるので、「長時間聞いても疲れないこと」「モノローグでもキャラクターがブレないこと」が非常に大切です。その意味で、このコンビは完成度が高く、ゲームからスパイダーマンに入った世代にとっては、ここが“自分のスパイディ”という人も多いでしょう。
「声の演じ方」から見えるキャラクター像の違い
声の演じ方に注目して比べてみると、同じスパイダーマンでも印象がかなり変わります。たとえば、トビー版・アンドリュー版・トム版のピーターは、実写なので表情や身体の芝居も合わせて感情を伝えます。そのため、声だけを聞くと意外と抑えめで、特にシリアスなシーンでは低く静かなトーンになることが多いです。
一方、アニメや吹き替えは「顔が作画側に預けられている」ぶん、声だけで感情の振れ幅を表現しなければなりません。宮野真守や小野賢章、榎木淳弥、興津和幸といった声優は、ため息の長さや息の吸い方、笑い声の入り方まで細かく調整して、「しゃべり方そのものがキャラクター」に聞こえるように工夫しています。
俳優志望・声優志望の人は、同じシーンを字幕版と吹き替え版で見比べて、「どこを強く言っているか」「どこで声を抜いているか」をチェックしてみると、勉強になるはずです。
第4章:スパイダーマンという役が俳優にもたらしたもの
トビー・マグワイアのその後と現在地
トビー・マグワイアは、子役からキャリアをスタートさせ、『サイダーハウス・ルール』などで評価を高めたあと、ライミ版『スパイダーマン』で世界的な知名度を手に入れました。 大ヒットシリーズの主役を演じたことで、彼は「スーパーヒーロー俳優」という強いイメージと、大きなプレッシャーを同時に背負うことになります。その後、主演作のペースは少し落ちましたが、プロデューサーとしてインディペンデント作品の制作にかかわるなど、裏方の仕事も増えていきました。
2021年の『ノー・ウェイ・ホーム』では、年を重ねたピーターとしてサプライズ出演し、長年のファンを喜ばせました。スクリーンの中の彼は、以前より落ち着いた表情で、若い二人のピーター(アンドリューとトム)を見守る立場になっています。あの姿には、役の中の時間だけでなく、トビー本人がスパイダーマン以外の仕事や人生を経験してきた重みも感じられます。「大役を引き受けたあとも、自分なりの距離感で映画と付き合い続ける」という意味で、トビーはひとつの理想的なケースだと言えるでしょう。
アンドリュー・ガーフィールドが再評価された理由
アンドリュー・ガーフィールドは、アメイジング2作が公開された当時、評価が分かれた俳優でした。作品のトーンが暗めだったことや、ストーリーの途中でシリーズが打ち切られたこともあり、「なんだか中途半端で終わってしまった」という印象を持っていた人も多かったと思います。
しかし『ノー・ウェイ・ホーム』への再登場で、状況は大きく変わりました。彼のピーターは、過去の出来事を引きずったまま、それでも笑って冗談を言おうとする姿が印象的です。ある重要なシーンで、かつて救えなかった存在を守りきった瞬間にこぼれる涙は、アンドリュー自身の複雑な感情も重なっているように見えます。
その後、ミュージカル映画『tick, tick… BOOM!』などで歌と演技を高く評価され、今では「演技派俳優」としての地位を確立しました。スパイダーマンという大役を経て、一度は距離を置き、時間をおいてから戻ってきたことで、彼のキャリアはむしろ厚みを増したと言えるでしょう。
トム・ホランドがBrand New Dayで迎える新しい段階
トム・ホランドは、MCU版スパイダーマンの3作を通じて、「高校生から若い大人へ」の成長を描いてきました。『ノー・ウェイ・ホーム』のラストで、彼は自分の存在を世界から忘れさせる決断をし、MJとネッドとの関係を捨ててまでみんなを守る道を選びます。
その続きとなる『Spider-Man: Brand New Day』は、タイトル通り「新しい一日」「新しい人生の始まり」がテーマの作品になると見られています。現在の情報では、トム・ホランドに加え、Zendaya、Jacob Batalonのほか、Mark Ruffalo(ハルク)、Jon Bernthal(パニッシャー)、Michael Mando(スコーピオン)など、MCUの他キャラクターも参加すると報じられており、物語のスケールはかなり大きくなりそうです。
Sadie Sink が重要な役で出演すると発表された際には、「ジーン・グレイではないか」という噂も出ましたが、公式に役名は明かされておらず、あくまでファンの推測の範囲にとどまっています。 いずれにせよ、トムにとっては「学生ヒーロー」から一歩進んだ段階を演じるチャンスであり、俳優としての新しい顔が見られそうです。
香山浩介とニコラス・ハモンドが残したレガシー
香山浩介とニコラス・ハモンドは、トビーたちほど世界中で知られているわけではありません。しかし、スパイダーマンを実写で「動いている人間」として初めて見せてくれたのは彼らの世代です。ニコラスはアメリカのテレビドラマで、当時の技術と予算の中で、“普通の青年が必死に戦う”ヒーロー像を丁寧に作り上げました。
香山浩介は、東映版というかなり自由度の高い企画の中で、山城拓也というオリジナル主人公を全力で演じ切りました。レオパルドンに乗り込むシーンや、敵組織の幹部と対峙するときの表情には、昭和特撮らしい熱さが詰まっています。
マルチバース時代になった今、彼らのスパイダーマンは「別の宇宙のスパイダーマン」として再評価されつつあります。いつか正式なクロスオーバー企画で、レオパルドンや70年代版ピーターが再登場する日が来るかもしれません。そう考えると、二人が残した仕事は、単なる“古い作品”ではなく、現在進行形のレガシーだと言えます。
日本語吹き替えキャストたちのキャリアとスパイダーマン愛
日本語吹き替えでスパイダーマンを支えてきた俳優たちにも、それぞれの物語があります。トビー版ピーターを担当する猪野学は、舞台やドラマでも活躍してきた俳優で、どこか素朴で誠実な声が、ライミ版ピーターの人柄にぴったり合っています。アメスパ版ピーターの前野智昭は、アニメでも主役級が多い人気声優で、感情の起伏が激しいアンドリュー版の芝居を、丁寧に日本語へ落とし込んでいます。
トム・ホランド版ピーターの榎木淳弥は、軽快で少し照れのある声で、「クラスにいそうな後輩感」を作り上げています。マイルス役の小野賢章やピーター・B役の宮野真守は、すでに多くの代表作を持っていますが、スパイダーバースシリーズで新たな代表役が増えた形です。
インタビューなどを読むと、彼らは単に仕事としてキャラクターをこなしているわけではなく、「自分もスパイダーマンが好きだから」という理由で全力を尽くしていることが伝わってきます。好きな作品を好きなまま演じることは簡単ではありませんが、その温度があるからこそ、吹き替え版を愛するファンも多いのでしょう。
第5章:これからスパイダーマンを見る人への鑑賞ガイド
初心者向け:どの順番で観ると分かりやすいか
これからスパイダーマンをきちんと観てみよう、という人におすすめなのは、「時代順」ではなく「俳優の変化」で作品を並べる方法です。最初に観るなら、やはりトビー・マグワイアのライミ版三部作。ここで、内気で責任感の強い“王道ピーター像”をつかんでおきます。
次に、アンドリュー・ガーフィールドの『アメイジング・スパイダーマン』2作を観ると、同じピーターでも感情の出し方や恋愛の描き方が大きく違うことに気づきます。 そこで「自分はどちらのピーターに共感しやすいか」を感じてから、MCU版のトム・ホランド作品に進むと、「先輩ヒーローたちに囲まれた高校生」という新しいポジションがより鮮明に理解できるはずです。
余裕があれば、そのあとでニコラス・ハモンド版や東映版をつまみ食いしてみると、「昔の制約の中でどんな工夫をしていたのか」が見えてきて、俳優の頑張りに改めて驚かされます。
俳優・声優好きならここを見ると楽しい
俳優や声優の演技が好きな人は、ちょっと視点を変えて作品を楽しんでみましょう。たとえば、ピーターがスーツを脱いで落ち込んでいるシーンだけを見比べると、それぞれの俳優の「弱さの見せ方」に違いがあります。トビー版は、肩を落として視線を下に向ける「静かな落ち込み」が多く、アンドリュー版は感情があふれて身体ごと崩れ落ちるような表現が目立ちます。
声優面では、同じスパイダーマンでも、宮野真守のようにテンション高めで笑いを取りにいくタイプと、興津和幸のように落ち着いたお兄さん寄りのタイプでは、セリフの間の取り方がまったく違います。 アニメやゲームでは、マスクをかぶったままのシーンが多いため、声だけで感情を説明する必要があり、その工夫を意識して聞くと、芝居の奥行きがよく分かります。
英語学習にスパイダーマンを使うならこの作品
スパイダーマン作品は、英語学習にも向いています。日常会話からヒーローっぽい決め台詞まで、幅広い表現が出てくるからです。初心者〜中級者なら、まずトム・ホランド版から入るのがおすすめです。高校の教室や部活、友だちとのやり取りなど、日常的な会話が多く、スラングもそこまで難しくありません。
リスニング力を鍛えたい人は、アンドリュー版の早口の会話や、スパイダーバースの若者言葉に挑戦してみると良いでしょう。 学習のコツは、同じシーンを「英語音声+日本語字幕」「英語音声+英語字幕」「英語音声のみ」と段階的に観ること。最後に、日本語吹き替え版を観て、「このとき自分ならどう訳すか」を考えながらシャドーイングすると、翻訳のセンスも鍛えられます。
俳優志望・声優志望が真似したいポイント
俳優志望の人にとって、スパイダーマン作品は身体表現の教科書のような存在です。トム・ホランドの「立っているだけで若く見える」姿勢や、戦闘後に肩で息をしている細かな芝居は、体の使い方を研究するのにぴったりです。
トビー・マグワイアのピーターは、怒りや悲しみを目線の揺れや口元の震えで表現することが多く、アップの演技を学ぶのに向いています。 アンドリュー・ガーフィールドは、「泣きながらしゃべる」ような感情的なシーンが多く、舞台や映像で感情を爆発させる練習の参考になります。
声優志望の人は、宮野真守や小野賢章、榎木淳弥、興津和幸のマイク前の芝居に注目してみましょう。同じ怒りでも、息を多めに含ませて荒く聞かせるのか、声量を抑えて冷たいトーンにするのかで、キャラクターがまったく変わります。
2026年以降の新作・ゲームと「次にスパイダーマンを演じる人」
これからの予定をざっくりまとめると、2026年にトム・ホランド主演の『Spider-Man: Brand New Day』、2027年6月18日にアニメ完結編『Spider-Man: Beyond the Spider-Verse』が公開予定です。後者は、もともと2024年3月公開予定でしたが、脚本家・俳優組合のストライキなどの影響でいったん公開未定となり、その後2027年公開に再設定されました。
ゲームの世界では、インソムニアック・ゲームズが『Marvel’s Spider-Man 3』に取り組んでいることを、ピーター役のユーリ・ローエンタールがインタビューで認めています。スタジオから正式発表はまだですが、「Peter is not gone. He will be a part of the next game.」というコメントから、3作目でもピーターが重要な役割を担うことはほぼ確実です。
今後、実写でマイルス・モラレスやスパイダーグウェンが登場すれば、新しい俳優がスパイダーマンの名を受け継ぐことになります。誰が選ばれるのか、どんな解釈で演じるのか。その答えを見届けるのも、スパイダーマンファンの大きな楽しみの一つです。
まとめ
スパイダーマンというヒーローを「誰が演じてきたか」という視点から眺めると、作品の見え方が少し変わってきます。1970年代のニコラス・ハモンドと東映版の香山浩介が、まだ荒削りな特撮の時代に「等身大の青年ヒーロー」を作り上げ、その後トビー・マグワイアが2000年代の映画ブームを牽引しました。
アンドリュー・ガーフィールドは、現代的で繊細なピーター像を提示し、ノー・ウェイ・ホームでの再登場によって評価を大きく高めました。トム・ホランドは、MCUという巨大な世界観の中で、後輩ヒーローから一人立ちする青年としての成長を演じ続けています。
その一方で、シャメイク・ムーアや小野賢章、宮野真守、興津和幸といった声優陣が、アニメやゲームの中で「声のスパイダーマン」を作り上げてきました。 彼らを合わせると、スパイダーマンを演じた人の数は想像以上に多く、まさに「赤と青のスーツのバトン」を何度も受け渡してきた歴史だと分かります。これからも新しい俳優・声優がそのバトンを受け取るでしょう。そのたびに、同じスーツの中身が少しずつ違う人間として描かれ、私たちの心に新しいスパイダーマンが増えていきます。

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